559号
2026年6月15日

酒蔵の灯を守り、ふたりで酒造りを続けていく
いわき市内郷高坂町の高坂団地に続く坂を上り始めて間もなく、左側にある案内に従って曲がり、道なりに上っていくと、タイムスリップしたような趣のある四家酒造の建物が現れる。見晴らしがよく緑がいっぱいで、両手を広げて深呼吸したくなる。今年の全国新酒鑑評会(酒類総合研究所、日本酒造組合中央会共催)で、四家酒造は「又兵衛 純米大吟醸」で8年ぶりに金賞を受賞した。
創業は1845年(弘化2)、無類の酒好きだった初代、又兵衛さんが自分で楽しむために酒造りを始めた。当主が代々名乗ってきた又兵衛を銘柄にしたのは昭和50年代、先代の良一さん。いつしか又兵衛は「いわきの地酒」と認識されるようになった。
四家酒造ではこれまで長い間、冬になると岩手の花巻から南部杜氏が5人ぐらいやって来て、半年ほど蔵に住み込んで酒造りをしてきた。しかし高齢化のなかで杜氏の確保が難しくなり、またコロナ以降、人々の酒の飲み方が変わって売れ行きも思わしくなく、昨年から7代目の四家久央さん(55)と専務の明さん(51)兄弟がふたりで酒造りをしている。
簡単に酒造りを説明すると、まず米を磨いて(精米)洗米し、水に浸して必要な水分を吸収させて蒸かす。その蒸かした米に麹菌を振りかけ、麹室で繁殖させて麹造りをして、そのあと蒸し米と麹米、仕込み水、酵母を合わせて酒母を造る。
それから日本酒の原型となる醪を造る仕込みの工程に入り、そして発酵させる。この醪造りと発酵はどちらも温度管理が重要になる。そのあと醪を圧搾機にかけて原酒と酒粕に分け、ここで初めて酒の姿が現れる。
原酒は濾過して透明度を高め、雑味を取り除き、酒質を安定させて保存性を高めるために火入れ(加熱処理)をして貯蔵タンクで寝かせる。この熟成期間を経て角がとれ、香味が落ち着き、より深い味わいになる。火入れの回数やタイミング、その後の処理によって、日本酒はさまざまな種類に分かれる。
これまでの酒造りは杜氏たちを主体に、久央さんと明さんは手伝いをしてきた。昨年、初めて自分たちが主体になって取り組んだ。慣れないなかで試行錯誤して、福島県酒造組合特別顧問の鈴木賢二さんなど、いろいろな人にアドバイスを受けながら純米吟醸を造った。
今年は純米大吟醸に挑戦。酒造りはその年、その年違う。常磐下湯長谷の太平桜酒造の代表の大平正志さんに相談したり、鈴木さんには毎日、分析結果を送ってアドバイスを受けたりしながら、最後まで気を抜かず緊張しながら取り組んだ。できた純米大吟醸は香りも膨らみがあって、少し甘く、思いのほかいい感じになった。
炭鉱の最盛期、いわきには3、40軒の酒蔵があったという。けれどいま、自分たちで仕込みをする酒蔵は四家酒造と太平桜酒造の2軒しかない。四家さんたち兄弟ふたりで造れる酒の量は限られる。全体の量からするとわずかで、ほかの造り酒屋の手を借りてまかなっている。それでも四家酒造の酒蔵の灯を守り、ふたりで酒造りを続けていくという。
いわき市内の酒店にはいま「又兵衛純米大吟醸 金賞受賞酒」(四合瓶・720㎖・7000円)が置いてある。四家酒造はこれまで金賞を15回受賞しているが、今年の受賞は特別だ。
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