543号
2025年10月15日

海と海につながる
すべてのいのちが汚されませんように
東京電力福島第一原発のALPS処理汚染水の放出差し止めを求めて約360人の原告が国と東電を訴えている裁判で、第5回口頭弁論が10月1日、福島市の福島地方裁判所で行われた。6月に開かれる予定だったが、裁判所の予定調整ミスで第6回の日に順延となり、9カ月ぶりの裁判だった。
この日、原告側の意見陳述では、原発事故前は浪江町下津島に住んでいた菅野みずえさんが、下津島での生活やこの14年を振り返りながら、思いや考えを述べた。みずえさんの下津島の自宅は福島第一原発から27㎞。帰還困難区域になっていて、現在、兵庫県で暮らしている。みずえさんの意見陳述の内容を要約して紹介する。
下津島では45分ほど車を走らせ、請戸漁港によく魚を買いに行きました。売り物にならない魚がバケツ1杯で500円。それをみりん干しにして冷凍庫で保存しました。秋の鮭祭りでは何尾か買って、さばいて切り分けて冷凍庫へ。冷蔵庫にはイクラ漬けが何本も並びました。煮つけはドンコ、唐揚げはメヒカリ。山側に住むわたしたちにも海は豊かな食を届けてくれていました。
事故で壊れた原発建屋に大量の地下水が流れ込み、汚染水になります。そこには何百年と放射線を出し続ける放射性物質も含まれていて、(ALPSなどで)処理されたとしても取り除けない放射性物質があることは明らかです。
「汚染水を海に流す計画がある」という報道をきっかけに、わたしは浜通りに避難した連絡のつく女性たちに訴え、一緒に汚染水放出反対の署名活動をしました。浜通りの漁協にもお願いに行き、2つ返事で「署名用紙を置いていけ」と言われ、3万余筆の署名が集まって国に届けました。
いまも漁協の人たちの気持ちは「流すな」の立場です。国と東電は「関係者の理解なしにはいかなる処分もしない」と約束したはずなのに、守ることなく海へ流しています。いつの日か汚染水を処理できる技術が見つかるまで、わたしは「保管を」と願っています。
海水温が変わり、いま、福島の海はフグやズワイガニ、伊勢エビが豊漁と、親戚が知らせてきます。「海の底さ歩いて来たんだよ。カニやエビは大丈夫だべか。汚れた海の底を歩いて来たんだよ、長い時間さかけてよ。不憫でならね」と言うのです。
わたしは未来の世代を守りたい。微量であっても毒かもしれないものを海に流すのを、黙って見ている大人になりたくありません。子どものころ「なぜ戦争に反対しなかったのか」と親を問い詰め、「言える時代ではなかった」と言われたわたしは、何でも主張できる時代に「毒を海に流すな」と、ちゃんと言う大人でありたいのです。
どうかこの海、海につながるすべての命が少しでも汚されないよう守ってください。
意見陳述を終えたみずえさんに、傍聴席から拍手がわき起こった。
特集 海からの報告2025秋 |
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