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1998年にいわき市立美術館で開かれた「呼吸する視線 河口龍夫bみえないものとの対話」での河口


 蔡國強は1989年から91年までの3年間、筑波大総合造形研究生として河口龍夫の研究室に所属していた。河口は当時筑波大芸術学系の助教授で、20年にわたって留学生を1人ずつ受け入れ、指導教官として面 倒を見ていた。蔡が現れたのは、ちょうど留学生が途切れた年だった。河口は、その年は留学生を取るつもりはなく、純粋に制作・教育活動をするつもだった。そんなところに蔡がやって来たのだった。

呉の涙

 河口龍夫。この日本を代表する現代美術作家は、「見えること」と「見えないこと」の関係を作品化することで知られている。種子から未知なるエネルギーを感じ、植物種子の生命エネルギーを包み伝導させる、というコンセプトで作品を制作するようになった。河口によると、「種子のエネルギーが発揮されるのは、発揮できる状態や条件が整ったとき。つまり、エネルギー発揮の関係が生じたとき」なのだと言う。
 それがチェルノブイリ原発事故以降、種子は鉛で覆われるようになる。それはあまりに大きな衝撃だった。河口はあの事故以来、伝導させる銅ではなくて種子を放射能から保護するために、鉛を積極的に使うようになった。河口という作家は社会的事象が外的要因になって体内に深く蓄積され、それが作品に色濃く反映されるタイプと言えた。そしてその表現が実に美しいのだった。
 なぜ河口だったのか―。それは定かではない。偶然だったかも知れない。いずれにしても、蔡は作品を持って、夫人の呉紅虹と一緒に河口の研究室のドアをノックした。河口は一応話を聞いたが、「申し訳ないけど、今年は研究生を取るつもりはないんです」とやんわりと断った。その瞬間だったという。呉の美しい瞳から涙がこぼれた。河口は動揺した。そして、この中国人の夫婦を気の毒に思った。「じゃぁ、作品だけでも見てみましょうか」と言うと、呉の涙がほほえみに変わった。蔡が持ってきたのは火薬画だった。河口はその作品に迫力というかスケールを感じ、引きつけられた。そして最後には「引き受けましょう」と言うはめになった。

天安門事件

 蔡が研究生になったばかりのことだった。中国で天安門事件が起こった。6月4日、人民解放軍が広場の学生を武力鎮圧し、中国政府は319人が死亡したと発表した。河口は蔡の心中と中国の行く末を思った。そして、中国野菜の種子を鉛で封印した作品が生まれた。
 蔡は河口からすべてを学び取った。研究生の仕事というのは秘書というか弟子のようなもので、授業の助手はもちろん、美術界のしきたりを学んだり、展覧会の段取りの手伝い、買い物などをした。積極的に人とかかわり、日本語も上達した。
 河口にとっても蔡は礼儀正しく、貪欲で有能な研究生といえた。とにかくどんなことでも恥ずかしがらずに聞いた。本棚の本や図録、パンフレットも興味を持つと、「読んでいいですか」と許しを請う。とにかく勉強熱心だった。河口の展覧会があればその下準備を手伝い、会場に待機して河口の作品の説明までした。河口は、その心根の優しさに驚いた。「あんなふうに私のために動いてくれたのは、今まで肉親以外はいませんでした」と、静かに言った。
 蔡に河口のことを聞いてみた。「河口先生のところでは、アーティストがすべきこと、しなければならないことを勉強させてもらいました。あの期間は、今の私にとっても役に立っています」。蔡はにこやかにそう答えた。
 この夏、河口に電話をし、蔡に関する取材をした。河口は3月に筑波大芸術学系教授を退官したのだという。そして、蔡を「蔡さん」と呼び、思い出話を始めた。その電話は1時間近くに及んだ。
 「蔡さんのこれからはどうなるんでしょう」。そう尋ねた。すると河口は「周りが蔡國強をどう使うか、ということでしょう。そこで生まれる、現実的にできることと、彼がしたいことの間でのギャップ。それをどう処理していくのか。ある意味では拒絶していくのか。名前が出ない作家は確かに孤独だけれど、縛られない自由がある。逆にもてはやされることによる孤独、というのもある。要は、今後蔡さんがアーティストとして、どういう芸術活動のスタンスを持つか、だと思うんです」と言い、名残惜しそうに電話を切った。
(この項つづく=敬称略)




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