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いよいよ個展の開幕が迫り実行会のメンバーたちはほとんどが徹夜に近い状態で作業を続けていた



 平成6年(1994)3月6日、いわき市立美術館で蔡國強の個展「環太平より」が始まった。海に火を走らせて地球の輪郭を描くと同時に外星人にメッセージを送る「地平線プロジェクト」も、その日の夜に実行する予定だった。
 実行会のメンバーはほとんどが徹夜に近い状態でこの日を迎えた。美術館の展示と地平線プロジェクトの準備。それは並大抵の作業ではなかった。あの、砂浜に埋まっていた廃船を分割して美術館内に運び込み、骨組みを再現して作品として展示する。その下にビニール袋にラッピングされた塩を敷き詰める。廃船からはがした板で三丈の塔をつくる。さらに、地平線プロジェクトのための導火線を用意する。そのすべてが3三月六日の個展初日と、その日の夜のプロジェクトに向けて行われていた。「できるんだろうか」と思ってもやるしかない。どれも気の遠くなる作業ばかりだった。
 しかし、全員が黙々と作業をこなした。「ここの人々と一緒に時代の物語をつくる」という蔡のコンセプトが、メンバー一人ひとりにきちんと浸透し、機能している証拠だった。それは、取材をしていた報道カメラマンが思わず作業を手伝ってしまった、というエピソード一つをとっても、明らかだった。プロジェクトに関わった人すべてが何か大きな力のようなものに巻き込まれ、精神を突き動かされて、ワクワクしながらゴールをめざした。
 美術館に廃船の骨組みが展示された。蔡はその作品を「迴光―龍骨」と名づけた。迴光とはアトリエから毎日眺めていた太平洋の朝焼けの光(逆光)。と同時に過去をよみがえらせる光を意味しており、過去の遺物である廃船が光に包まれて現実によみがえったのだという。それは圧倒的な存在感を示していた。そして船の板でつくられた三丈の塔。西洋の象徴ともいえるヘンリー・ムーアの彫刻を東洋の象徴ともいえる廃船の板でつくった蔡の塔で覆う、という計画は実現できなかったが、船の出入りを見守るものとして、美術館前に重ねず3個バラバラに置かれたのだった。
 個展初日だったのか、前日のオープニングパーティー前だったのか。蔡はカッターナイフを滑らし、指を切った。志賀忠重が書いている。
 蔡は個展で唯一できていなかった段ボール作品「子供の為の作品」づくりに没頭していた。そんな姿を見て、志賀はイライラが募っていた。協力してくれたみんなが続々と集まって来ている。だと言うのに蔡は作品づくりに夢中だ。ついに志賀が切り出した。「もうそろそろやめたらどうですか。今はきちんと応対することの方が大事です。作品を作るよりそちらを優先した方がいいと思います」。蔡は志賀の不満を感じながらも、「わかりました」となま返事をしていた。そんな時、カッターを滑らせ指を切ってしまったのだった。
 志賀は一瞬、息が止まりそうになった。しかも、そのけがはプロジェクトの準備の中で初めてのものだった。志賀はいつも「無理をしないように」と口癖のように言っていた。
 「はっ」と思ったら、蔡が言った。「無理をするとケガをする」。それはまさしく志賀が言い続けた言葉だった。2人は顔を合わせて笑った。
 その日、海岸線は風が強く、波も高かった。実行会はプロジェクトの1日延期を決断した。広報車が延期を知らせるため市内を巡った。
(この項つづく=敬称略)



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