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 「心の壁」というのがある。「遠慮」という言い方もできる。取材をするうえで、それは大きな障壁となり頭の中で堂々巡りが繰り返される。そんなとき、「自分は記者に向いていないのではないか」と後ろ向きになり、ため息が出る。

 「天平」を書こうと決意したとき、「中途半端なものにしたくない」と思った。それには最も重要な証言者になる梅乃さんと信頼関係を築かなければならなかった。
 「梅乃さんという、天平にとって特別な女性を目のあたりにして決して特別な目で見ることなく、目線も心もフラットにすること」。そう自分に言い聞かせ、表面上は淡々とすることを心がけ、取材に入った。

 「いいですか梅乃さん。これからは聞きにくいことも聞かなければなりません。嫌な思いをするかも知れませんが、心の準備は大丈夫ですか。あとは私の良識を信じてください。お願いします」

 この理不尽な要求に、梅乃さんは、つるりとした顔で「はい、どうぞ」とあっさり簡単にOKを出してくれた。しかし実際には、梅乃さんが大事にしている思い出にずかずかと土足で踏み込むような気がして、思うような質問はできなかった。

 3回ぐらい取材をしたあとだったと思う。自分の中の心の壁が少し崩れてきたような気がした。そこで言った。
 「もう一回取材させてください。まだ聞きたいことが聞けてないんです」。梅乃さんは「あら、ずいぶん話したような気がしたけど、まだあるんですか」と意外な顔をした。

 残った質問は梅乃さんの人生についてだった。取材を続けるうちに「草野梅乃」という女性の人生をきちんと理解できない限り、天平は書けない、と思うようになっていた。「梅乃さん、これからが本当の取材のようなものです。お願いします」。よほど真剣な顔だったのだろう。梅乃さんは「はい」と言ったあと、「私はこれまでも包み隠さず話していますよ」と、優しく笑った。

 梅乃さんはJR山手線の目黒駅から歩いて2、3分のところにあるマンションに住んでいる。その日は、午後1時ごろから6時ごろまでぶっ続けての取材になった。
 二人は居間の椅子に向き合って座り、話をした。そして梅乃さんは真摯に自分の人生を語った。
 厳しい家で生まれ育ったこと、小児肺炎で入院したこと、進むべき道を誤り大学を中退したこと、浪人の末、大学に入り直し、国文学を学んだこと、幼なじみの画家と結婚し、自分は教職に就いたこと。そして、天平と知り合い、夫と別 れることになったこと。
 当時の梅乃さんの悩みは純粋で直線的だった。そんな時、天平と出会い、梅乃さんは目を開かされる。梅乃さんにとって、天平のいない人生など、考えられなくなっていたのだという。

 ゆったりとした時間が過ぎていった。そして、連載をするうえでのシンのようなものがしっかりと見え始めていた。

 その時の取材をきっかけに、自分の中にあった心の壁は完全に消滅した。帰り道、東京駅とつながっているデパートのレストランでそばを食べながらビールを飲んだ。取材メモを見ながら、心の中がぽかぽかしてきた。雲の上を歩いているような気分になりながら、いわきへ戻ってきた。

 その時の取材は、その後の連載、出版という流れの中で、大きなエポックメーキングとなった。そして、『天平―ある詩人の生涯』のあとがきでこう書くことになる。

 「ルポルタージュとは、小説でも、評論でもない。『報道すること』の延長だ。書き手と取材対象者が、ひとつのゴールへ向かって走り続ける。その展開や結末は最後までわからない。ただ、事実だけを積み上げ、書き手が報告者となって、ストーリーを組み立てていく。お互いが信頼しあい、すべてを明らかにしながら、作業は進んでいく。だからこそ、『ルポルタージュを書く」という行為には、『ある覚悟』が必要なのだと思う」





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