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自然の摂理

人は死んでゆく
また生まれ また働いて
死んでゆく
やがて私も死ぬだらう
何も悲しむことはない
力むことはない
ただ此処に
ぽつんといればいいのだ


 天平の「宇宙の中の一つの点」という詩だ。親友だった土門拳が、天平の死について書いた文章の冒頭にこの詩を引用した。無駄 を省いた優しい言葉で天平の生きざまのようなものを、さらりと表現していて、好きなものの一つだ。

 何年前だろうか。突然、読者の方から電話をいただいたことがある。私が書いた文章についてだった。

 県政汚職で知事の座を追われ、余生をひっそりと暮らしていた男性が大往生を遂げた。確か、百歳近かったと思う。晩年、私は彼を取材した。もちろん、遠い昔の県政汚職についても尋ね、取材が終わろう とした時、突然、聞いてきた。「私はこれから先、どう生きれて行けばいいのでしょうか」。不意をつかれた私は、即答することができず、 少し間を置いて「思ったように生きればいいですよ。自分の人生じゃないですか」と答えたのだった。

 そんな思い出を書いたところ、電話の主はこう言った。

 「文章を読むとあなたは、うまく答えられなかったと思っていらっしゃるのですね。私は70歳を超したただの年寄りですが、今の私だから言える言葉があります。
いいですか。太陽は何万年もの間、ただ黙って恵みを与え続けてきた。だからといって何の見返りも要求しない。それが自然の摂理なんです。自然の摂理に従って生きるべきです。これが72年にわたって生きた生きてきた男の結論です」

 天平の「宇宙の中の一点」を読むたびに、その電話を思い出す。天平は自然の摂理に従って生きた詩人だった。だからといって世間に向かって大きい声を上げるわけでもなく、思いを腹におさめて遠い眼をし続けた。






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