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 弘前大学医学部時代に、教授から聞いたロンドンのはなしがある。100年以上前の教科書に載っていたことで、奥さんの親と自分の親を胆石の手術で亡くしたという。「同じことがなぜ?」と考えると、論文などのために手術中心の手術が行われ、生命は二の次にされている実情があった。成功例は目に見えているものだけで、その陰に失敗が隠れている。
 「手術しても、肉体的にも精神的にも限りなく手術前と同じように回復させる」。それが麻酔科医の仕事の1つと、その教授に教えられた。教授は松木明知さん。松木教授にひかれ、洪浩彰さん(43)は麻酔科を選んだ。
 松木教授は研究好きで、有言実行。「患者さんは全部、親兄弟と思え」「とにかく勉強しろ」が口癖で、医学はもちろん、経済、人間を理解するための宗教を学び、本物の芸術にふれなさいと話していた。

 麻酔科医の仕事は手術での麻酔、それに痛みをとるペインクリニックなどがある。手術では患者の痛みを取り除くだけでなく、脈、血圧、心電図、体温、呼吸などを観察して全身の状態を良好に保ち、体への影響を最小限にする。
 ペインクリニックはほかの診療科で調べても悪いところがない、でも痛みがあるという「痛みそのものが病気」の診療で、神経ブロックの注射で痛みを抑え、血の巡りをよくして神経の回復を早める。
 7年間、痛みでおかゆしか食べられず、お化粧もできず、笑うこともできなかった女性が、注射を何回か繰り返すことで、それまでの痛みから解放された。そのような三叉神経痛を患うのは高齢者に多い。
 麻酔科医は全国で7000人ほどで、数は少ない。歴史的に日本は一時、何でもできる万能医が必要だったこと、それにステイタスがないことが理由に挙げられる。アメリカやイギリスでは心臓血管外科医に次いで麻酔科医は収入が多く、立場的にも優位だが、日本ではそうでもなく、外科医と麻酔科医の間に微妙な軋轢もある。

 洪さんは青森や北海道の病院に勤務し、平成5年、福島労災病院で診療を始めた。そして3年前に開業した。「いわき痛みと麻酔のクリニック」。どんなに頑張っても認めてもらえない麻酔科医の立場がそこにはある。
 麻酔科医が少ない背景に、開業できないという状況があった。しかし20年ほど前、博多の麻酔科医が全国で初めて臨床麻酔で開業した。開業といっても洪さんの場合、事務所的にアパートの一室を借り、病院と契約を結んで曜日と午前、午後で時間割をつくって、その病院の手術室で麻酔をかけたり、ペインクリニックをしている。
 いま、いわき市内の病院で常勤の麻酔科医がいるのは磐城共立病院だけで、数は6人、ほかに2つのクリニックに1人ずつ。10年ほど前は、共立病院に7、8人、労災病院に2人(ほかに大学からの応援が2人)、松村病院に2人いた。麻酔科医のいない病院ではどこからか麻酔科医の応援を頼むか、外科医が自ら麻酔をかける。
 麻酔科の専門医の立場からすると、もし肉親が手術するなら、麻酔科医が行う麻酔でないと受けさせたくない。外科医が麻酔もすると、患者の血圧が下がったり、呼吸が不安定になったりして、手術に集中できなくなる。万全の態勢で手術を受けさせたい、と洪さんは思う。

 開業に際し、洪さんは決意したことがある。「いわきに密着する」。夜中の臨時手術でも麻酔をするし、病院に30分で行ける場所にいる。それから「郷に入れば、郷に従え」。その病院の手術室のやり方に合わせて麻酔をかける。「自分のフィールド以外の病院に行ったら、力半分と思え」という松木教授の言葉も肝に銘じている。
 洪さんはいま、共立病院、労災病院、松村病院、かしま病院、いわき泌尿器科など10ほどの病院と契約している。朝8時前から夜8時ごろまで、土曜日の午後も仕事をして、週に3回ほど臨時手術もある。疲れて、夜9時には寝てしまうという。
 それでも開業したことで、意味のない会議に出なくていいし、救急当直もやらなくていい。夜中の臨時手術なら2、3時間は眠れるが、救急当直があると36時間眠らずに仕事をしなければならない。
 手術室でも徐々に自分流を出している。洪さんは麻酔の質にこだわる。手術を受けたはずなのに苦痛がない、術後の状態が楽な麻酔。患者が手術は怖い、痛くていやだと思い、手遅れになることがある。「こんなに楽なら、早く手術を受ければよかった」と、思える麻酔を心がける。患者が楽な状態は、医師や看護婦の喜びでもある。
 術後、麻酔から覚めるように名前を呼んで起こしたりするが、そうするとすべての苦痛がわかる。その場で麻酔から覚めなくてもいいのではないか、と洪さんは思う。ただ、苦痛を感じない状態にするには、かなり薬を使う。理想の麻酔ができているのは、契約している病院でもいくつかだ。

 医療政策が猫の目のように変わっているので実現できるかわからないが、洪さんは10年後ぐらいに、ホスピスのような病院を造りたいと考えている。いま、ターミナルケアは在宅医療の方向にあるが、病院でと思う人もいる。ホスピスで全人的な医療をしたいという。







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