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啓蟄の日の朝に

 わが家のリビングの壁に、アルプスの山小屋風の鳩時計がかけてある。30分おきに鳩が顔を出して鳴き、そばに立つ女の子が紐を引いて鐘を鳴らす。学生時代にまちで見かけ、何度もその店に通 ったあと、帰省する際に、その鳩時計の大きな包みを連れてきた。以来、ずっとわが家で時を知らせている。
 鳩と女の子は1時と30分には1回、5時には5回、12時には12回鳴き、鐘を鳴らす。鳴き声は「happy happy」と聞こえ、鳩が顔を出すたびにしあわせな空気が増していくようで、気持ちが弾み、元気ももらえる。遊びに来た子どもたちにも大人気で、なかには時計の前で鳩の登場を、じっと待つ子もいる。
 そんなに毎日、鳴いたり、鐘を鳴らしたりしていては疲れるだろうと、気がつくと家族のだれかが、山小屋のスイッチをオフにして、時々、1羽と1人を休ませる。不思議と、休んだあとの鳴き声や鐘の音は、いつもより大きく、澄んで聞こえる。
 昨年末ごろ、鳩が時間になっても鳴かないことに気づいた。連動しているので、女の子も鐘を鳴らさない。わきのスイッチはオンのまま。とうとう壊れたのかもしれない、と思いつつ、このごろ休ませていなかったので、そのまま様子をみていた。
 およそ3カ月後の3月5日の朝、起きがけに時計を見ると、鳩が顔を出していた。まるで冬眠から覚めて、伸びをしているようだと思っていたら、午前7時とともに鳴き始めた。もちろん女の子も鐘を鳴らした。
 日めくりカレンダーをめくると、その日は啓蟄。土のなかで冬ごもりをしていた生きものたちが、春の気配を感じて目覚めるころ。鳩時計の鳩も冬眠していたのかもしれない。
 その後、鳩は毎日、規則正しく時間を知らせている。

 
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