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 前の夜の残り香、といえば色気もあるのであるが、一晩じゅう黄色い煙のなかを漂泊し続けた男は、観光地のゆかたをだらしなくはだけたまま、目を覚ました。他の2人も同様であった。露天風呂は後廻しにして、朝食バイキングへの道を3人は互いをせかしあいながら急いだ。
 バイキングという魅力的な響き。バイキングの後の何処かさびしいような哀しいような気持ち。その落差を愉しむのがバイキングの醍醐味であろう。目のまえで焼いてくれたダシ巻き卵が美味しかったこと、それだけをここに記しておきたい。
 それから、まだ昇り始めたばかりの太陽のひかりを全身に浴び、露天風呂にドップリと浸かった。
 そして、何処へ。
 そう、ニキ美術館へ。
 車から降りると、紅葉のニキ美術館までの細い道筋から、すでにニキ・ド・サンファルは始まっているようだった。ニキの作品と向き合ったとき、又そこから別な道が始まっていくことへの準備運動みたいに。
 1930年パリ生まれのこの女性のもつ豊穰な質感、重力、形態、色彩。それらのもつ自在さを遊ばせながら、一瞬に止めたときに放つ、光。きっとその光。それを抱きしめた形が、『ナナ』『ブッダ』『ビッグ・レディ』等の作品となり、再びニキに抱き止められる。だから柔らかい、隅々まで。この日のニキ美術館も柔らかい光で隅々まで満たされていた。
 すこし濡れたようになってニキ美術館から、車のなかでの相談もまとまり、《りんどう湖ファミリー牧場》へと向かった。
 湖といっても人工のもの。その人工のものが、ひとつの命をもって呼吸しだす。りんどう湖に住みついた野鳥、移りかわる季節のなかで景色を変える木々の影。人工的であるもののなかで生きている野のものたち。その共生の不思議。
 りんどう湖を後にして、街道添いに十割蕎麦ののれんを見つけ、ざる蕎麦をすする。うまい、これが十割蕎麦であるという雛形。もう少し粗々しくてもいいかなと思った。
 ああ、喰べてばかりだ。

 そろそろ第1回家族旅行は解散に近づいている。胃袋のなかでは試食した『手作りハムのお家』のスモークタンの破片や『御用菓子』の断片が入り交じり、そしてそれらは浮遊しながら東北自動車道に乗り、我が家への帰路を急ぎ始めたようだ。
(詩人)





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